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終了報告

第57回高圧討論会 終了報告

第57回高圧討論会は,平成28年10月26日から28日までの3日間を茨城県つくば市の筑波大学大学会館をお借りして開かれ,最終日の29日にはつくばにある4つの研究機関を見学するスタディ・ツアーも行われて,全て無事に終えることができました。多くの機関・学協会(共催5,協賛53,後援3,合計61団体)の協力を得て開催され,参加者総数が375名,講演総数は259件(口頭発表51件,ポスター発表108件)でした。

つくばで開かれるのは,今回が3回目で21年振りになりますので,前回を覚えている学会員もつくば市の変わり様には驚かれたのではないかと思います。3日目午後からは生憎の雨になりましたが,翌日のスタディ・ツアー朝方には回復しましたので,全体として天候の影響は少なかったと思います。一つ残念に思ったことは,同時期に我々の4倍規模の研究集会がつくばで開かれることを見過ごしてしまったことです。ホテルがなかなか確保できず,苦労したとの声が多く聞かれましたが,早めに注意喚起できていればと,申し訳なく思っています。

会場の大学会館は地形を上手く使った3階建ての建物で,大学の主行事を行う講堂の他に,ホール,特別会議室,国際会議室,マルチメディアルームを講演会場に使用しました。大学事務局担当者からは,設備が旧式で使い辛いかもしれないと聞いていましたが,全く問題なかったと思います。実は会場の予約後に,大学事務局から講堂やホールの耐震改修工事を行いたいとの連絡があったのですが,松石副実行委員長(筑波大学)の折衝のお陰で,工事の方を遅らせてもらうことになりました。大学事務局担当者の方々にはそれ以外にも,会場設営の際にも色々と要望を聞き入れて頂きましたので,大変感謝しています。大学会館には30名程度の会議室が5室もあり,大変充実しています。休憩室や討論会事務局,学会関連会議,「若手の会」と「PF高圧ユーザーグループミーティング」には別々の会議室を割り当てることが出来ましたので,それぞれ余裕を持って活用できたと思います。

このところ,企業展示ブースへ参加者の流れが悪いとの声が寄せられていました。そこで今回は,展示ブースを喫茶コーナー(パン・菓子,コーヒー他)と抱き合わせでホールホワイエに設営しましたが,良い評判が多かったと聞いています。高圧討論会の運営は参加費だけでなく企業広告によっても支えられているために,今後も色々と工夫してゆく必要があると思います。一方ポスター会場としては,講堂ホワイエと多目的ホール,ラウンジの3箇所が使えました。そのため3日間入れ換え無しの掲示が可能となり,各自の都合に合わせてじっくりと閲覧することが出来たのではないでしょうか。特に初日に行われた48件のポスター賞エントリー分は,講堂ホワイエにまとめて展示されていたために,正会員とシニア会員による投票も容易だったと聞いています。例年通りポスター賞選考委員会による開票・審査の結果,5名の学生会員が受賞し,「若手の会」で発表されました。

今回の討論会では,学会全体の活性化を図るために新しい企画を幾つか実施いたしました。その中で,分野を異にする会員間の交流や議論の機会を増やすことを目的として導入したものが,初日に行われた学会奨励賞(後述)の記念講演と,2日目に行われた大谷栄治氏(東北大学)と山本和貴氏(農研機構)によるプレナリー・レクチャーです。後者は全く前例が無く,講演するお二人はイメージを掴むのが難しかったはずですが,期待通りの面白い講演内容だったと思います。また,このプレナリー・レクチャーと山内正則氏(KEK:高エネルギー加速器研究機構)による特別講演は,「学会活動の一端を垣間見て,高圧科学の最先端に触れる機会」と位置づけた上で,一般市民や学生に公開いたしました。KEKは基礎科学に特化した極めて特異な研究機関であることから,その目的と社会的な意義を,山内機構長に話して頂きました。素粒子から宇宙の謎の話は奇妙で大変興味深いものでしたが,基礎科学は社会が価値を認めるかどうかに掛かっている,という一言は重く響きました。さて,実行委員会としてはこの一般公開プログラムを討論会の山場と考え,色々な事態など想定して対応を検討していたのですが,殊の外すんなりと終えることが出来,一同肩の荷を下ろした気分になりました。一般公開の宣伝の為にはチラシやポスターを製作し,つくば市内の200箇所近い公共施設や研究機関に掲示して頂きました。他方,学生や他分野の研究者にアピールすることを目的に,同じデザインの研究者向けポスターも製作し,50人ほどの学会員に配布して掲示をお願いいたしましたが,評判が気に掛かるところです。

2日目の午後に設けられたプレナリー・レクチャーと特別講演の一般公開が終了した後に,今年度の学会賞と奨励賞の授賞式が行われました。学会賞は清水克哉氏(大阪大学),奨励賞は野村龍一氏(愛媛大学)がそれぞれ受賞されました。授賞式に引き続き,清水氏による「メガパール低温領域における各種元素の電子状態の研究」と題された学会賞受賞記念講演が行われました。低温高圧実験を始めたばかりの頃の実験装置や最初に高圧討論会に参加したときの写真などを紹介しながら,ご自分の高圧超伝導探査への挑戦の歴史を話されました。学生や若手だけでなく,研究者にとって極めて示唆に富んだ講演だったと思います。休憩を挟んで,第28回日本高圧力学会総会が開催され,議長に選出された入松徹男氏(愛媛大学)の議事進行により,6件の議案が討議・承認されました。閉会の後,参加者は送迎パスや路線パスなどで,つくばセンターに程近いホテルグランド東雲へ移動し,「有明の間」を会場に懇親会が行われました。

懇親会は232名の皆様に参加頂き盛大に行うことが出来ました。例年通り実行委員長,谷口学会会長の挨拶,来賓(筑波大学数理物質系長伊藤雅英氏)の祝辞,鏡抜き,前回つくば開催時の実行委員を務められた下村理氏による乾杯と式が進み,宴が始まりました。つくば市を含む県南地域は畜産や農産物の一大生産地ですが,特産品となると逆に挙げるのが難しく,料理自体はごく一般的なものでしたが,屋台で提供されていたローズポークの塩釜は,つくば市が力を入れるだけの味だったかと思います。また日本酒なども実行委員が吟味したものでしたので,参加された皆様には,それなりに満足して頂けたのではないかと思っています。学会賞,奨励賞,ポスター賞各受賞者の挨拶の後,展示や広告を出して頂いた企業名の紹介を挟んで歓談が続けられました。宴も終わりに近づいた頃,最初のつくば開催時の実行委員長である若槻雅男氏からの祝辞があり,次回の高圧討論会実行委員長である長谷川正氏から名古屋大学で開催されることが発表されました。その後,実行委員長より参加のお礼と実行委員の紹介があり,慰労の拍手を頂いて懇親会のお開きとなりました。

3日目も一般講演とシンポジウム,ポスターセッションが夕方まで行われ,活発な討論が行われました。シンポジウムは,今年も3つのテーマで開催されました。尾崎典雅氏(大阪大学),奥地拓生氏(岡山大学)と関根利守氏(広島大学)が世話人を務める「パワーレーザーとXFELによるダイナミック超高圧の展開」が初日に,山本和貴氏(農研機構)と松木均氏(徳島大学)が世話人の「生物関連高圧シンポジウム基礎から産業利用へ」,及び船守展正氏(KEK)と斉藤寛之氏(量研機構)による「KEKにおける放射光高圧力科学の将来展望」は2日目から3日目に亘って行われ,多くの参加者による活発な質疑応答が行われました。

最終日は,KEK,農研機構,産総研,物材機構でスタディ・ツアーが行われ,延べ71名の参加がありました。参加者は貸切パスや路線パス,車などでそれぞれの研究所に移動し,講師から研究室で使われている各種高圧装置や研究の説明を受けていました。また所属する研究機関の代表的な設備や成果の展示についても興味深くご覧になっていたようです。これが今後の研究のヒントや研究者同士の協力関係に発展する契機になればというのが,企画の目的でしたがどんな感想をお持ちでしょうか。

以上のように,4日間に亘って開かれた今回の高圧討論会は,参加者にとって今後の研究,教育,社会貢献に多少なりとも役立つ交流の場になったのではと思います。つくばという地の利,人の利を生かして,多くの新しい企画を詰め込んだ討論会でしたが,学会幹事会と本会に参加頂いた皆様のご理解とご協力もあって,幾つかの反省点はあるものの大過なく無事に開催終了することが出来ました。自画自賛との誇りを免れないかもしれませんが,想像以上にスムーズに実施できたとも感じています。これは20名の実行委員とともに,プログラム作成をお手伝い頂いたシンポジウム世話人と26名のアルパイト学生の奮闘の賜だと思います。有り難うございました。筑波大学と産総研,KEKには,電気製品や什器の使用を許可して頂き,誠に有り難うございました。特に,筑波大学については,大学会館の使用を認めて頂いたことが,今回の新しいスタイルの討論会を実現できた最大の要因であると考えています。記して深く感謝いたします。加えて,高エネルギー加速器科学研究奨励会,つくば科学万博記念財団,つくば観光コンペンション協会,村田学術振興財団からの助成金支援,要旨集への広告企業16社,会場での展示企業19社,日本高圧力学会事務局スタッフのご協力を頂きましたことに対し,実行委員一同心より感謝申し上げます。

第57回高圧討論会実行委員長 亀卦川 卓美
(高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所)


筑波大学大学会館の玄関前の立看板

シンポジウム会場の様子

10月26日のポスター会場の様子

学会賞と奨励賞の授賞式後の記念撮影

懇親会でのポスター賞受賞者の皆さん

10月29日のスタディ・ツアーの様子
(物質・材料研究機構)

《高圧力の科学と技術 第26巻第4号(2016年11月20日発行)会告に掲載》